インプラントは歯を失った部分に行う治療方法の一つです。骨にチタン製の人工歯根を埋めて上にセラミックの歯をつけます。1〜2本でしたら、歯を抜く程度の簡単な手術でご自分の歯と同様に使えるようになります。
インプラントを行うメリット
- 違和感もなく、自分の歯と同じような感覚で噛むことができます。
インプラントを経験なさった方は、またインプラントにしたいと思われる方が多いようです。 - 周りの歯を傷つけずに治療をすることができます。ブリッジのように隣の歯を削ったり、入れ歯のように周りの歯を支えに使う必要もありません。
- 見た目は自分の歯とほとんど同じです。取り外しも必要ありませんから、お友達とのご旅行でも気にする必要がありません。
- インプラントは歯が1本だけない人でも、全部の歯がない人でも施術可能です。
- 歯磨きはご自分の歯と同じようにします。メンテナンスもご自分の歯と同様に行います。
インプラントを行うデメリット
- 全額自費治療になります。手術費用、材料費、上につけるセラミックの歯など全て含めて、基本的に1本367,500円です。事前の検査で費用が決定します。
- 骨の量が足りない方は、まず骨を作る手術が必要になることがあります。それも事前の検査で必要か必要でないかがわかります。必要な場合は別途費用がかかります。骨の量によって費用が決まりますが、4万円〜5万円程度必要です。
- 歯を抜くのと同程度の手術が必要です。
- 重度の糖尿病の方、骨粗しょう症の治療中の方、ヘビースモーカーの方は治療ができない場合があります。
インプラントはどのくらいもつのでしょうか
■1965年、スウェーデンの医師ブローネマルク教授によって治療された最初の患者さんは、治療後40年近く当時のインプラントを使用して、最近亡くなりました。
現在、ブローネマルクインプラントの20年累積データとして発表されているものには、1983年から85年にかけて治療された報告で、上顎の残存90.0%、下顎の残存92.3%というデータがあります。 また、10年以上のデータでは96%、5年以上のデータでは98%以上と報告されています。
■現在でもインプラントはその形を変えて新しい物が開発され続けています。歯肉に対して親和性の高いもの、骨の吸収のないもの、審美性に優れたものなどです。
また、インプラント本体の表面の形態も、できるだけ骨との結合−osseointegration −が高い物が開発されていますので、残存率はさらに上がっていくことでしょう。
インプラントの歴史は何年くらいですか?
■インプラントの歴史はとても古く、紀元前と言われています。1931年には中南米のボンジュラスで紀元600年のインプラントされた下あごの骨が見つかっています。
なんとこの顎の骨には貝殻で作られた歯が埋め込まれていました。その当時、治療の技術はほとんど無かった事でしょう。歯が無くなることは栄養の摂取を絶たれること、イコール死に直結していたのは間違いありません。
古代の人たちは現在よりも硬い物を食べていました。歯ブラシなどない時代に、硬い物を噛むことは唾液の分泌を促しますから、それなりに虫歯の予防にはなりますが、もちろん今ほどではありません。
■貝殻のインプラントは骨の中で安定していたでしょうか。たぶんそれはないでしょう。つい最近までしっかりと骨の中で安定するインプラントはありませんでした。
インプラントの素材として、鉄、金、エメラルド、サファイヤ、ステンレス、アルミニウム等が試されましたが、どれも満足のいくものではありませんでした。ましてや、長期にわたり自分の歯のように噛めるようなインプラントはなかったのです。それはインプラントと骨がしっかりと結合しなかったからです。
■そんなインプラントの不満足な歴史にピリオドを打ったのは「チタン」でした。チタンは骨と結合−osseointegration −し、長期間安定して機能する素材として現在もっとも用いられています。
インプラントの長大な歴史のなか、ついに安定する、咬めるインプラントの歴史が始まりました。
■現在のインプラントにはすでに約40年以上の実績があります。世界中で行われているインプラントには、40年を過ぎても十分に機能している症例がたくさんあります。
ようやく私たちはインプラントの完成形となる物を手に入れたのです。そして今後も、インプラントはより進化しながら私たちの生活をさらに豊かなものにしてくれることでしょう。
現在のインプラント誕生物語
現在使用されているインプラントがどのように生まれたのか、そのエピソードをご紹介しましょう。
■1952年、スウェーデンの科学者でルンド大学の医学部教授のペル・イングヴァール・ブローネマルクは、当時応用生体工学研究所の所長もしていました。
骨の治癒に対する骨髄の役割について研究をしていた彼は、ウサギの足に研究用の顕微鏡を埋め込みました。そして、研究を終え器具のとりはずしを試みた彼は、驚くような事実に直面したのです。
器具が外れないのです。その研究器具はチタン製でした。今まで使用していたステンレスの器具ではそのようなことはありませんでした。そこで、ブローネマルクはチタンが骨に結合するのではないかと考えました。
- 1960年、イエテボリ大学解剖学教授となったブローネマルク教授は、生体内で血球がどのような働きをするのかという研究に取り組むこととなりました。
そして血流を調べるために、人間に対して初めてチタン製の顕微鏡を腕に埋め込んだのです。研究器具は、今回は骨ではなく軟組織に埋め込まれました。
■何ヶ月にも及ぶ研究の終わりにチタン製の器具を取り外すと、埋め込んでいた軟組織には何の異常も現れてはいませんでした。ここで新たに彼は、チタンが硬組織だけではなく軟組織に対しても親和性が高いという事実を知りました。
それによって、チタンは硬組織に対しても軟組織に対しても生体親和性の高い金属であるということが証明されたのです。このことは、 歯と骨と歯肉が共存するお口の中にとって、これはとても重要です。
■体には、自分と自分以外を判断し、自分以外の物(異物)の侵入を妨げる免疫という働きがあります。例えば細菌やウィルスなどが侵入してきたらそれをやっつける、ケガをした時体の中に何かの破片などが入り込んできたらそれを排除する、そういった仕組みです。
しかしチタンは、体が異物として認識しないのです。
■その後も実験は続けられ、チタンが骨と強固に結合する事が証明されました。ブローネマルク教授はこれを骨との結合という意味で「オッセオインテグレイション−osseointegration −」と名づけました。Osseoとは「骨」、integrationとは「結合」という意味です。
チタンは、1965年に先ずは医科から、本格的に人間への応用が始まりました。その後いよいよ歯科での応用が始まります。
■そして現在、チタン素材の製品は、骨折した部位をつなぐプレートとそれを留めるネジ、人工関節、人工骨、骨に埋め込む補聴器、そして人工歯根(歯科インプラント)などとして、医療領域で幅広く応用されています。